普賢象(フゲンゾウ)― 悠久の時を刻む八重の至宝
菩薩の乗り物を連想させる「象の鼻」
普賢象は、室町時代から愛されてきた歴史ある八重桜です。最大の特徴は、花の中心から突き出した2本の雌しべが、湾曲して葉化している点にあります。この姿を、普賢菩薩が乗る「白象の鼻」に見立てたことが名前の由来です。一輪に20〜50枚もの花弁が重なる様子は非常にボリューミーで、咲き進むにつれて白から淡いピンクへと色が移ろうグラデーションも、見る者の心を捉えて離しません。
晩春を豪華に締めくくる「里桜の王者」
ソメイヨシノが散り、多くの人が春の終わりを感じる頃、普賢象は満開を迎えます。開花と同時に赤茶色の若葉が芽吹くため、ピンクの花色とのコントラストが美しく、落ち着いた大人の風情を漂わせます。花が散る際も、花びらが一枚ずつ舞うのではなく、花冠が丸ごとポトリと落ちるのが特徴的です。その潔さと圧倒的な存在感から、古くよりお寺や庭園のシンボルとして大切に植えられてきました。
深山桜(ミヤマザクラ)― 山奥でひっそりと輝く野生の光
桜の常識を覆す「総状花序」のフォルム
ミヤマザクラは、一般的な桜とは咲き方が根本的に異なります。1箇所から数輪が広がるのではなく、長い花軸に沿って10輪ほどの花が縦に並んで咲く「総状花序(そうじょうかじょ)」というスタイルをとります。その姿はまるで白いブドウの房のようで、遠目には桜とは思えないほど独創的です。雄しべが非常に長く、花弁の間から繊細に突き出している様子は、厳しい高地で進化を遂げた植物の力強さを感じさせます。
初夏の風に揺れる、白く気高い野生の魂
名前の通り標高の高い山地や北国に自生するミヤマザクラは、桜前線の最後を飾る存在です。5月から6月にかけて、瑞々しい新緑の中で真っ白な小花を咲かせます。樹皮には細かい毛が多く、他の桜に比べてどこか無骨な印象を与えますが、それこそが自然界を生き抜く野生種の証です。登山道などでふと出会うこの桜は、華美な装飾を削ぎ落としたような清廉さがあり、見る者に静かな感動を与えてくれます。